個別性への取り組み

One & Only 7

ハイラート - 娘の結婚式に出席するためALSに立ち向かう55歳男性 –

「父親として迎える娘の結婚式」

⑴ ハイラートさんはエンジニアの仕事に就いており、妻と娘の3人で暮らしていた。 最初に異変を感じたのは重い物が持てなくなったことであった。 仕事柄、力を使う仕事ではないためハイラートさんは特に気にせず、年を取ったんだなと思っていた。 でもその後、思うように足が出ないときがあり、すっと立ち上がれないこともあった。 違和感を抱きつつ生活していたとき、妻から「ちょっと痩せた?」と言われた。 鏡を見ても分からなったが、たしかに手足が細くなっていた。 その頃から食べ物が飲み込みにくくなっていたため、おかしいと思い病院へ行ったところALSの診断をうけた。 早い段階から筋の萎縮や誤嚥性肺炎などの2次障害を予防するために訪問リハビリが開始となった。

⑵ リハビリに行ったある日、ハイラートさんから「病気のことについては調べてる。治らないことも分かってる。 ただ来年、娘の結婚式があるんだ。俺の場合、どのくらいのスピードで病気が進行していくのかは分からない。 でも娘と一緒に歩いてあげたいし、迎えてくれる婿さんにしっかり自分の手で送り出してあげたい。 仕事ばかり頑張ってきたから父親でないとできないことをしてやりたいんだ」と熱く話された。 それを聞いていた奥さんの目も潤んでいた。


⑶ 日が経つにつれ2階に上がれなくなり、さらに杖で歩くことも難しくなった。 職場ではハイラートさんの体の状況に合わせて仕事をする場所や内容を考慮してくれていたが、 仕事を続けることが難しくなり、とうとう退職を余儀なくされた。 「ダメだな。こんな体じゃ結婚式に出られん」と少し焦った様子で気持ちを話してくれた。 ハイラートさんはもう杖を使って移動することができず、車椅子を使い始めていた。 だが、思うように体を動かせず車椅子の操作もスムーズにはいかなかったため、ハイラートさんの中で葛藤が現れてきていた。

⑷ 結婚式前月、起き上がるためにはベッドの機能を使い、車椅子に移るためには家族の介助が必要な状態であった。 同じ頃に呼吸状態も少しずつ悪くなっており、主治医から人工呼吸器の導入について話があった。 病気について調べていたハイラートさんであったが、現実に直面すると涙を落としながら 「結婚式は諦めるしかないな。俺には無理だった」と話された。 ハイラートさんが初めに話してくれた思いを大切に車椅子を電動のものに切り替えた。 そして人工呼吸器を使うことを踏まえ、座面の下に収納できるスペースを作るなどハイラートさんだけの車椅子に改良した。 初めて乗ったとき「自分の意思で自由に動けることがこんなにも嬉しいなんて」と無心で操作していた。

⑸ 結婚式当日、娘さんの隣にハイラートさんの姿があった。 ヴァージンロードを真っ直ぐに、ハイラートさんは堂々と新婦をエスコートしていた。 新郎へと手が渡ったとき、一途に新郎の目を見つめた。 最後に娘の目を見て「ありがとう」と口を動かし、歩く2人の後ろ姿を見つめていた。