個別性への取り組み

One & Only 8

アンドリン - うつ病発症後、脳出血により右半身麻痺となった71歳男性 –

「本当に望んでいること」

⑴ 5年前、アンドリンさんは会社の上司と反りが合わなかったことで、うつ病を発症してしまった。 その後、退職を余儀なくされ家賃も払えなくなってしまったため、お兄さんのアパートに突然やってきて一緒に暮らすことになった。

 ある日、お兄さんが仕事を終え家に帰ってきたとき、アンドリンさんが倒れていた。 脳出血で、右半身に麻痺が残ってしまった。 入院中のリハビリでは、杖や装具の使用、安全に生活するために家の環境を整えることなどをセラピストから勧められた。 しかし、物事に対するこだわりが強く、自分が納得しなければ「うん」とは言わなかった。 また、アンドリンさんは糖尿病が進んでおり、医師から透析が必要とも言われていた。 そのため「弟が退院してくるけど介護したことないし、ほかに手伝ってくれる人もいないから、どうしてあげればいいか分からない」 と今後の生活に対し不安があったため、訪問看護が開始となった。

⑵ 看護師が関わり始めたとき、主治医からはすでに「透析を行わなければ命を落とすことになる」と告知されていた。 それでもアンドリンさんは現状問題なく生活できているため、主治医の提案は受け入れなかった。 その後も受診のたびに透析を勧められたが、アンドリンさんの意思は変わらなかった。 アンドリンさんに対しては足浴を始めとしたケアを行った。 腎臓が悪いため下肢に水分が溜まり、水疱といった皮膚障害も頻繫に見られていた。 仕事の都合上、お兄さんとは訪問時に毎回会えるわけではなかったが、 そんな状況でも、記録や電話でのやり取りを通して少しずつ安心感を得ることができ、介護にも慣れることができていた。


 ⑶ 薬は問題なく内服でき、食事も腎臓に配慮した内容にしていたが、それらだけでは腎不全の進行を遅らせるのに限界があった。 溜まっていた水分は、腹部に達し、1ヶ月後には肺に、最終的には心臓にまで至った。そのため横になると咳が出てしまう状態であった。 それでも透析を受けることは頑なに拒否されていた。 お兄さんはアンドリンさんの様子を見て、「一緒に住み始めた頃は自由奔放な弟にいつまで居座る気なんだと問い詰めたときもあったけど、 いまは弟の好きなように生活させてやることが1番なんだと思ってる」と話してくれた。 今後の方向性について、主治医を交え話し合ったときも「弟のためなら自分のお金を使ってもいい」とまで話されていた。

⑷ ある受診のときアンドリンさんは「透析はいいから目を見えるようにして。時代劇が観たいから」と主治医に訴えた。 糖尿病の影響で、明るいか暗いかが分かる程度で、TVは観られず、ラジオを聞いて過ごしていた。 手術を受けるためには透析を行う必要があったが、アンドリンさんは透析を受け入れられなかった。 目が見えるようになるために透析が必要であることを、主治医を含め何度も話し合った。 ついに、アンドリンさんは透析の治療に対し「やる」と返事をした。

⑸ その後は透析を拒否することもなく、順調に治療が進んだ。 視力が回復した後、お兄さんと一緒に時代劇を観に行った。 二人は久しぶりの演劇に、声をあげながら観賞していたそうだ。